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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和40年(く)5号 決定

本人 M・K(昭二〇・四・二九生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は申立人両名が連名で提出した抗告申立書記載のとおりであつて、要するに、少年は原審判日の昭和四〇年四月一四日当時既に、同月二四日には少年院での処遇の最高段階である一級上に達することが確実となつていたのであり、したがつて少年院長も、少年の犯罪的傾向は少年が満二〇歳に達する同月二九日には仮退院を許すまでに矯正されていると認めていたものといわなければならない。のみならず保護者も既に十分な受入れ態勢を整えて少年の退院を待ち望んでおり、かかる少年の矯正の程度と退院後の環境とを相関的に検討するとき、少年の犯罪的傾向は矯正されていると認定すべきである。又少年は将来調理士として身を立ることを希望し、印刷の仕事に就く意思はないから、今後なお数ヶ月間収容を継続してみても、その程度の短期間に少年の犯罪的傾向が現在以上に矯正される見込はないし、印刷工としての職業指導が実を結ぶとも考えられないから、収容を継続することは少年の保護にとつて無益であり、人権保護の見地から決して許さるべきでない。それ故少年の犯罪的傾向が矯正されていないと判断し、少年に対する収容を継続することとした原決定には重大な事実の誤認があり、その処分は著しく不当であるといわなければならない。又一〇月二八日まで継続収容すると少年は満二〇歳を六ヶ月も超えることになるのであつて、かかる少年を中等少年院に収容することとした原決定には少年院法第二条の解釈適用を誤つた違法がある。以上の点で原決定は取消されるべきであるというのである。

よつて検討するに、保護事件記録並びに少年調査記録によると、少年は昭和三九年四月二八日宮崎家庭裁判所で窃盗保護事件により中等少年院に送致され、同年五月二日から福岡少年院に収容されているものであるところ、少年の非行は、怠隋で根気がなく、浮つ調子で欲求のままに行動し易い性格的欠陥がその要因となつており、しかも少年のかかる性格的欠陥は昭和三五年頃(中学三年生頃)から漸次非行との結びつきを深め、少年院における少年の行動もかかる少年の性格的欠陥が未だ十分矯正されていないことを示したものであることがうかがえる。なるほど少年の保護者は少年をその希望どおり調理士見習として就職させる手筈を整えて少年の退院するのを待ちかねていること所論のとおりである。しかし手筈を整えているといつても、単に就職の宛があるという程度に過ぎず、それ以上更に少年に対する監督指導の具体的方法まで考慮しているわけではなく、少年の保護者にそのような点まで配慮するだけの保護能力があるとも認められない。以上のような少年の性格や記録に現われている環境に照らすと、少年の犯罪的傾向が、少年をして今直ちに少年院を退院させるほど矯正されているとは認められないのであつて、少年院における少年の処遇が最高段階に達していることも右認定を左右するに足らず、又短期間の収容継続が少年の犯罪的傾向の矯正にそれ程著しい効果があるとは認められないこと所論のとおりであるとしても、なお収容継続の効果を全く無視することも亦正当でない。そして前に叙べた少年の性格、環境、少年院における処遇の内容、その他諸般の事情をかれこれ考え合せるとき、少年を昭和四〇年一〇月二八日まで継続収容することとした原決定の処分は相当であり、原決定に所論のような重大な事実の誤認はもちろん、処分の著しい不当があるものとは認められない。又少年院法第二条が収容すべき少年院の種類を少年の年齢によつて定めた法意は、年齢によつて少年の心身の発育の程度が異なるため、なるべく発育の程度に応じた矯正教育を行い、もつて教育個別化の理念に近づくことを意図したためと解される。したがつて年齢による区別は必ずしも絶対的なものではなく、少年の心身の発育の程度、犯罪的傾向の強弱等の具体的な状況に応じ、右に述べた少年院法の法意に反しない限り、満二〇歳を超えた少年を中等少年院に収容することも違法とはいえない。本件において、少年は現に中等少年院で矯正教育を受けており、犯罪的傾向がそれ程著しいわけではなく、年齢もおおむね二〇歳であること等諸般の事情を勘案すると、少年を中等少年院に収容することとした原決定の処分が違法とはいえない。

よつて本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項少年審判規則第五〇条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 古賀俊郎 裁判官 塩見秀則 裁判官 中野辰二)

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